歴史館の百年

阿里山の第一印象といったら、日の出、雲海、森林、鉄道、サクラといったところですが、一帯にはあまり知られていない歴史的建築物や古跡が残っており、阿里山一帯で最も著名な宿泊施設である阿里山賓館も、そのうちのひとつです。

阿里山賓館（ホテル）は営業開始から百年以上たっており、この百年の歴史の中で、阿里山林場の栄枯盛衰と移り変わりを見てきました。郷土史と地元文化に詳しい人ならば、「賓館」という呼び名は近代以降のことであることを知っており、阿里山ホテルの最初の名称は“阿里山倶楽部”でした。

早くも1895年には、阿里山一帯で広大なヒノキの原生林が発見され、地域ぐるみで林業開発が進められており、この時期に伐採した木を輸送するために、世界的に有名な阿里山森林鉄道が建設されました。

1912年、二万坪まで鉄道が開通して伐採が始まり、1914年には沼平まで延伸されて、阿里山森林鉄道の幹線が全線開通しました。

史料によると、日本統治時代の阿里山一帯には、沼平から二万坪まで、最高地点では玉山登山口、低いところでは鉄道沿線まで、クラブや招待所が林立しており、建造当初は林場まで出張してくる職員の食事や寝泊まり、休憩を目的としていました。

これらのクラブは時代とともに、ひとつ一つ歴史のかなたに消えていきましたが、当時最大にして、今日まで残っているのが阿里山賓館の前身“阿里山林場倶楽部”です。この建物が建造された1912年のころは、交通が不便で、建材の調達が容易ではないのに加えて、阿里山林場でヒノキ、紅ヒノキといった優良建材を多く産することから、地元で木材をまかなって、今日の阿里山ホテルでも特に有名な百年のヒノキ建築——阿里山賓館歴史館が建てられました。

阿里山ホテルの歴史館は1913年（大正2年、中華民国2年）、台湾に駐在していた日本人が地元産のヒノキで建てたもので、（釘を1本も使わない）ほぞ組み工法を用いた複雑な工事を経て完成された、貴重な歴史的建築物です。建造当初は合計3棟あり、地元の長老の述懐によると、本棟は日本人向けの住居で、台湾人は立入禁止、隣の旧棟は日本人のために働いていた台湾人ホワイトカラー向けの華南寮（現在は歴史館コンクリート棟に改築）、後棟は木材伐採の木こりの住居だった工寮でしたが、大きな火災が起きて、本棟だけが残りました。

本館は建造当初は「阿里山林務倶楽部」と呼ばれ、阿里山駐在の日本人にとって経済、政治、文化の中心であり、阿里山の原生林管理を目的としていました。館の前に植わっているサクラの木は、当時の日本人が植えた、皇室と同じ高級品種“ソメイヨシノ”で、樹齢百年になります。館の前、左側にそびえ立つヒノキは樹齢九百年弱で、かつて樹冠部に銅鐘を置いていました。なぜ伐採しなかったのか、「今となっては考証不可能」ですが、実際には日本人が阿里山住民を招集するときに使っていたようです。

日本統治時代の9人の総督、中華民国の5人の総統、シンガポールのリー・クアンユー首相（当時）、各国の外交使節団など、来賓は枚挙にいとまがなく、台湾光復後は政府が名称を「阿里山賓館」と改めて、来賓の接待と公務に使っていました。

1965年、林務局が180万元の資本を投下して招待所を改築。元来のヒノキ建築を残すとともに、林場職員の独身寮だった建物を鉄筋コンクリート造りに改築し、スイートルーム16部屋、たたみの和室7部屋を用意し、“阿里山賓館”に名称変更しました。ここで阿里山賓館の名が正式に用いられて、今日に至っています。